インプラントの噛む力は天然歯の何%?回復のメカニズムを専門医が解説

インプラントの噛む力とは
歯を失った際の治療法として注目されているインプラント。
多くの患者様から「インプラントにすれば、本当に硬い物も噛めるようになるのでしょうか」というご質問をいただきます。顎の骨に人工歯根を埋め入れるインプラントは、高い安定性が特長です。しかし、天然の歯と同じように噛めるのか、気になる方も多いのではないでしょうか。
インプラント治療を検討される際、噛む力の回復率は重要な判断材料となります。食事の質は生活の質に直結するため、治療後の噛む力について正確に理解しておくことが大切です。
天然歯と比較した噛む力の回復率
インプラントの噛む力は、天然歯の80~90%程度まで回復可能です。
天然歯の噛む力を100とした場合、20~30歳の男性の奥歯で約60kg、女性でも約40kgもの圧力がかかるとされています。インプラントは、この天然歯に近い噛む力を取り戻すことができる治療法なのです。
他の治療法と比較すると、その差は明確です。保険適用のブリッジでは60~80%程度、部分入れ歯では30~40%程度、総入れ歯に至っては10~20%程度の回復率に留まります。
インプラントが高い噛む力を発揮できる理由は、その構造にあります。人工歯根であるインプラント体を顎の骨に直接埋め入れるため、天然歯と同じように垂直的な力を支えることができるのです。一方、入れ歯やブリッジは歯根がなく、両隣の歯で人工歯を固定する仕組みのため、噛む力が歯茎にかかり、十分に支えることができません。
インプラントの構造が生み出す安定性
インプラントは3つの部分から構成されています。顎骨に埋め込まれる人工歯根のインプラント体、表面に見える人工歯、そしてインプラント体と人工歯を繋ぐアバットメントです。
この構造により、噛む力が天然歯と同じように骨で支えられます。治療時に顎骨に埋め込まれたインプラント体は、時間をかけて骨と生体的に結合し、強固な土台を形成します。この結合により、インプラントは安定性が高く、しっかりと噛めるようになるのです。
ただし、インプラントには天然歯に存在するクッション組織である歯根膜がありません。歯根膜は、噛む力を調整したり、衝撃を吸収したりする重要な役割を果たしています。インプラントにはこのクッション組織がないため、人工歯で食べ物を噛むと、顎の骨にダイレクトに刺激が伝わります。
インプラントで硬い物は噛めるのか
安定した後は、弾力のあるお肉や硬いナッツもしっかり噛めるようになります。
手術後、インプラント体と顎の骨が結合して安定すれば、硬い物や弾力のあるお肉、繊維質の野菜などをしっかり噛んで食べられます。硬すぎる物を除き、基本的にインプラントでは「噛んではいけない食べ物」はありません。
避けるべき硬すぎる物
ただし、例外があります。
氷、飴玉、梅干しの種、殻付きの硬いナッツ(クルミ、マカダミアナッツなど)、硬パンや石パンなどの硬いお菓子といった「硬すぎる物」は控えた方が良いでしょう。これらの硬すぎる物をインプラントで噛むと、上部構造である人工歯がひび割れたり、アバットメントがゆるんだり、インプラント体と顎の骨の結合が阻害されたりする可能性があります。
天然の歯であっても、常軌を逸した硬すぎる物は歯を痛める原因になります。本来、噛むために作られていない物を無理に噛むことは、天然歯でもインプラントでも避けるべきです。
歯にくっつきやすい物は問題ない
ガム、お餅、水あめ、ハイチュウなどのソフトキャンディー、キャラメルといった歯にくっつきやすい物は、インプラントで噛んでも問題ありません。
人工歯根を埋め入れる治療法であるため、歯にくっつきやすい物を噛んだからと言って、インプラントがひっこ抜ける心配は基本的にありません。ただし、これらの食べ物は糖分が多く含まれるため、天然の歯のむし歯予防のために、食べた後はしっかり歯を磨くことが大切です。
噛む力が回復することのメリット
噛む力の回復は、単に食事が楽しめるだけではありません。
バランスの良い食事が可能になることで、栄養バランスが整い、体全体の健康に良い影響を与えます。柔らかい食べ物を選んで食べていると、自然に偏食に繋がることがありますが、インプラントの場合は気にせず食べられるため、様々な食材から栄養を摂取できます。
顔の印象が若返る効果
噛む力は外見にも影響を与えます。

私たちは噛むことで顔の筋肉を鍛えているのですが、噛む力が弱く、噛むことが少なくなると、筋肉が衰え、顔がたるんできたり、シワができやすくなったりします。インプラントなら他の天然歯と変わらずしっかりと噛めるため、顔の筋肉を適切に使い続けることができ、若々しい印象を保つことに繋がります。
消化吸収と全身の健康への影響
しっかり噛めることは、消化吸収の改善にも繋がります。食べ物を十分に咀嚼することで、胃腸への負担が軽減され、栄養素の吸収効率が向上します。また、噛む刺激が脳に伝わることで、脳の活性化にも役立つとされています。
さらに、しっかり噛めることで唾液の分泌が促進され、口腔内の自浄作用が高まります。これにより、むし歯や歯周病、口臭の予防にも効果的です。噛む力の回復は、口腔内だけでなく、全身の健康維持に重要な役割を果たしているのです。
手術後の注意点と仮歯の期間
インプラントで何でも噛めるようになるのは、手術で埋め入れたインプラント体が顎の骨と結合し、安定した後です。
手術後、仮歯のあいだは、硬い物や弾力のある物、歯にくっつきやすい物はできるだけ控えるようにしましょう。仮歯の段階でこれらの物を噛むと、インプラント体と顎の骨の結合が阻害されてしまい、治療をやり直さなければならなくなる可能性があります。
結合期間中の食事の工夫
結合期間中は、やわらかい食事を中心にすることが推奨されます。
スープ、おかゆ、蒸し野菜、やわらかく煮た魚や肉など、噛む力をあまり必要としない食事を選ぶと良いでしょう。この期間は一時的なものであり、インプラントが安定すれば、天然歯に近い感覚で様々な食材を楽しめるようになります。
治療期間中の我慢が、長期的な快適な食生活に繋がります。担当医の指示に従い、適切なケアを続けることが、インプラント治療成功の鍵となります。
長期的な維持のための工夫
インプラントを長く維持するためには、日常的な工夫が必要です。
弾力のある物やナッツを食べる際は、インプラントの人工歯だけではなく、残っている天然の歯もまんべんなく使って食べ物を噛むことをおすすめします。また、ナッツはゆでてやわらかくしたり、硬すぎるお菓子はお湯や水、お茶やコーヒーなどに浸けてやわらかくしたりする工夫も有効です。
定期的なメンテナンスの重要性
インプラントの長期的な成功には、定期的な歯科医院でのメンテナンスが欠かせません。
専門的なクリーニングや噛み合わせのチェックを定期的に受けることで、インプラント周囲炎などのトラブルを早期に発見し、対処することができます。インプラントは適切なメンテナンスを行えば、10年経過でも残存率90%超を維持でき、平均寿命は30年以上とされています。
日々のセルフケアと定期的な専門的ケアの両方を継続することが、インプラントを長く快適に使い続けるための秘訣です。
まとめ
インプラントは天然歯の80~90%程度の噛む力を回復できる治療法です。
ブリッジや入れ歯と比較しても、圧倒的に高い回復率を誇ります。顎の骨に人工歯根を埋め入れる構造により、天然歯に近い感覚でしっかりと噛むことが可能になります。硬すぎる物を除き、基本的に噛んではいけない食べ物はなく、バランスの良い食事を楽しめます。
ただし、手術後の仮歯期間中は硬い物を控え、インプラント体と骨の結合を待つことが重要です。安定した後は、弾力のあるお肉や硬いナッツもしっかり噛めるようになりますが、日常的に硬すぎる物を噛み過ぎないよう注意が必要です。
噛む力の回復は、食事の質を高めるだけでなく、顔の若返り、消化吸収の改善、脳の活性化など、全身の健康に良い影響をもたらします。適切なメンテナンスを継続することで、インプラントは長期間にわたって快適な食生活を支えてくれます。インプラント治療をご検討の際は、専門医にご相談ください。

著者情報
理事長 梶原 基弘NORIHIRO KAJIWARA
- 経歴
- 九州歯科大学口腔インプラント科医員 外来診療チーム長
- 九州歯科大学口腔再建リハビリテーション学分野(口腔インプラント学)大学院歯学博士
- 関東医療法人 東京都、神奈川県にて院長に
- 資格・所属学会
- 日本口腔インプラント学会
- JSOI 日本口腔インプラント学会専門医
- 九州歯科大学歯学博士
投稿論文
- Soft tissue biological response to zirconia and metal implant abutments compared with natural tooth: microcirculation monitoring as a novel bioindicator. Kajiwara N, Masaki C, Mukaibo T, Kondo Y, Nakamoto T, Hosokawa R.Implant Dent. 2015 Feb;24(1):37-41.
- Comparison of plaque accumulation and soft-tissue blood flow with the use of full-arch implant-supported fixed prostheses with mucosal surfaces of different materials: a randomized clinical study. Kanao M, Nakamoto T, Kajiwara N, Kondo Y, Masaki C, Hosokawa R.Clin Oral Implants Res. 2013 Oct;24(10):1137-43.
Two-dimensional real-time blood flow and temperature of soft tissue around maxillary anterior implants. Nakamoto T, Kanao M, Kondo Y, Kajiwara N, Masaki C, Takahashi T, Hosokawa R.Implant Dent. 2012 Dec;21(6):522-7.
