インプラントができない人の条件とは?骨造成で可能になるケースも解説

インプラント治療を受けられない条件とは
失った歯を取り戻すインプラント治療は、多くの方にとって魅力的な選択肢です。
しかし、すべての方がインプラント治療を受けられるわけではありません。顎の骨の状態、全身の健康状態、年齢など、さまざまな要因が治療の可否に影響を与えます。インプラントは人工歯根を顎の骨に埋め込む治療法であるため、土台となる骨が十分にあることが前提条件となります。また、手術を伴う治療であることから、全身状態の管理も重要な要素です。
治療を検討される際には、ご自身の状態が適応条件を満たしているか、事前に確認することが大切です。
骨の量や質が不足している場合
インプラント治療において最も重要な要素の一つが、顎の骨の状態です。
歯を失ってから時間が経過すると、その部分の骨は徐々に痩せていきます。これを骨吸収と呼びます。骨は日常的な咀嚼による刺激によって維持されていますが、歯が抜けるとその刺激が失われ、時間の経過とともに骨量が減少していくのです。重度の歯周病によって骨が破壊されているケースや、上顎洞が大きくもともと骨の量が少ないケースも、骨造成が必要となることがあります。
骨粗鬆症の患者様は、骨の密度や質が低下しているため、インプラントの固定が困難であり、成功率が低下する可能性があります。特にビスホスホネート製剤を服用している場合は、顎骨壊死のリスクもあるため、事前の薬剤管理が重要です。
全身疾患や持病がある場合
糖尿病や高血圧などの持病がある方は、インプラント治療の適応を制限されることがあります。
糖尿病は身体全体の治癒力を低下させ、口腔内の感染リスクを高めます。特にインプラント手術後の骨組織の治癒に悪影響を及ぼし、インプラントの成功率を低下させる可能性があります。ただし、血糖コントロールが整っていれば治療可能なことも多く、主治医との連携が重要です。高血圧は手術中および術後の出血リスクを増加させ、手術の安全性と結果に影響を及ぼします。
人工透析を受けている患者様は、免疫力の低下、出血リスクの増加、骨代謝の異常などにより、インプラント治療の成功率が下がる傾向にあります。特に二次性副甲状腺機能亢進症による骨の脆弱化も考慮が必要です。ただし、透析スケジュールとの調整や血液検査に基づいた適切なタイミングを選ぶことで、治療が可能なケースもあります。
口腔内の状態が悪い場合
歯周病や虫歯がある状態でインプラント治療を行うと、感染リスクが高くなります。

歯周病は歯と歯肉を支える骨を破壊する炎症性疾患です。インプラントが必要とする健全な骨構造が損なわれるため、成功率が低下します。虫歯も同様に、健康な口腔環境と反対の状態を作り出し、インプラント周囲の感染リスクを高めます。インプラントは天然歯とは異なり、歯周靭帯がないため、一度炎症が進むと歯周組織を失いやすいという特性があります。
そのため、事前に歯周基本治療や根管治療を行い、口腔内の衛生環境を整えることが不可欠です。歯周病や虫歯などの口腔内疾患をまずは治療し、健康な口腔環境を確立した後に、インプラント治療を進めることが推奨されます。
年齢や生活習慣による制限
インプラント治療の可否は、年齢や日常の生活習慣にも大きく影響されます。
特に成長期の方や、喫煙習慣のある方、妊娠中の方などは、治療のタイミングや方法について慎重な判断が必要です。これらの要因は、インプラントの成功率や長期的な安定性に直接関わってくるため、治療前に十分な理解と対策が求められます。
18歳以下の未成年の場合
未成年に対するインプラント治療は、通常は推奨されません。
未成年は成長期のため骨が生成される段階にあり、顎へインプラント体を埋め込むことで成長を阻害する可能性があるためです。インプラントは顎骨の成長が完了していることが前提となります。顎の骨がまだ成長段階にあると、インプラントを埋入しても将来的に位置がズレたり、噛み合わせが不自然になる恐れがあります。一般的には18歳前後が適応とされますが、成長の進行状況を確認するための精密な検査を使って、適切なタイミングを判断します。
基本的には、大人になってからのインプラントが推奨されています。気になる方は、顎の成長が止まっているかどうか、歯科にて精密検査を受けることをおすすめします。
喫煙習慣がある場合
喫煙はインプラント治療の成功率を大きく低下させる要因です。
喫煙は血管収縮を引き起こし、歯肉や骨への血流を低下させることで、インプラントの骨結合を阻害します。血流が悪化すると、手術後の治癒が遅れ、感染リスクも高まります。また、喫煙によって口腔内の免疫力が低下するため、インプラント周囲炎のリスクも増加します。
インプラント治療を成功させるためには、少なくとも手術前後の一定期間は禁煙することが強く推奨されます。理想的には、治療開始前から完全に禁煙し、治療後も禁煙を継続することが、長期的な成功につながります。
妊娠中の場合
妊娠中はインプラント治療を避けるべきです。
レントゲン撮影や外科的処置、薬の使用などが胎児に影響を及ぼす可能性があるため、原則としてインプラント治療は避けるべきとされています。また、妊娠中はホルモンバランスの変化により歯周病が悪化しやすいこともあり、出産後の体調が安定してから治療を検討するのが望ましいとされています。インプラント手術本番だけでなく、各種検査からさまざまなストレスがかかることはもちろん、インプラント終了までの時間もかかります。
出産直後は母子ともに体調が不安定なため、体調や生活環境などいろいろと落ち着いてから歯科を受診されるのがおすすめです。
骨造成によってインプラントが可能になるケース
骨が足りないと言われた方でも、諦める必要はありません。

骨造成という技術を用いることで、多くの方がインプラント治療を受けられるようになっています。骨造成とは、インプラントを安定して埋め込むために、足りない骨を増やす外科的処置のことです。一般的には人工の骨補填材や自分自身の骨を使って、骨が不足している部分を補います。近年では、骨造成技術の進化により、以前は治療が困難だった症例でも対応できるようになってきました。
骨造成とは何か
骨造成は、インプラントの埋め込みに必要となる場所の骨の量を増やす手術のことをいいます。
顎の骨が少なく厚みがない方でも、骨造成を行うことでインプラントに必要な顎の骨を確保できます。歯がない状態が長く続く、重度の歯周病で骨が溶けてしまっている、虫歯などが原因で根っこの先に病巣ができて骨を溶かしてしまっているなど、一度溶けてしまった骨は自然再生しません。まずは骨造成を行い、インプラント治療を進めていく必要があります。
骨造成が必要かどうかは、CT検査などの精密な検査によって判断されます。歯科用CTを用いて、骨の厚みや形状、神経の位置まで正確に把握し、安全性と精度を両立した治療計画を立てることが重要です。
主な骨造成の方法
骨造成には、いくつかの方法があります。患者様の状態や骨の不足している部位によって、最適な方法が選択されます。
GBR法は、骨が足りない部分に人工骨を詰め、特殊な膜で覆って骨の再生を促す方法です。この方法では、骨形成の妨げになる繊維芽細胞の侵入を防ぐため、骨を増やしたい部分をメンブレンという人工膜で覆い、その中に自家骨や人工の骨補填材を詰めて骨芽細胞の増殖を促します。人工骨の種類にもたくさんの種類があり、自分の骨を利用するものほど成功率が良いとされています。
サイナスリフトは、上顎の骨が薄い場合に、上顎洞側に骨を造る方法です。上顎洞にはシュナイダー膜という膜が元々あるので、その膜を破らないように剥がして、人工の骨を詰めることで骨を造ります。ソケットリフトは、歯を抜いた後のくぼみから骨に穴を開けて、部分的に上顎洞に骨を造る方法です。サイナスリフトに比べて骨を削る量が少ないため、痛みや腫れが少ないという利点があります。
骨造成の治療期間と費用
骨造成の治療期間は、方法によって異なります。
GBR法では骨が再生されるまでに3~6か月程度かかります。基本的にはインプラント埋入と同時に行うため、治療期間が大幅にのびることはほとんどありません。しかし、インプラント埋入と分けて行う場合は、骨が再生されるまでの期間を待たなくてはいけないので治療期間はのびます。ソケットリフト法の治療期間は3~4か月程度で、インプラント体の埋入と同時に行うため、治療期間が大幅にのびることはほとんどありません。
骨造成は基本的に自費診療となります。ただし、先天的な理由や後天的な理由で顎の骨が大きく欠損している場合、一定の条件を満たす医療機関であれば保険適用される場合もあります。費用については、治療方法や使用する材料、医療機関によって異なるため、事前に詳しく確認することが大切です。
インプラント治療を受けるための準備と注意点
インプラント治療を成功させるためには、適切な準備が欠かせません。
治療前の検査から術後のケアまで、各段階で注意すべきポイントがあります。特に全身状態の管理や口腔内環境の整備は、治療の成功率に直結する重要な要素です。また、治療後のメンテナンスを継続できるかどうかも、長期的な成功を左右します。
治療前に必要な検査
インプラント治療を安全に行うためには、精密な検査が必要です。
CT検査は、骨の厚みや形状、神経の位置を三次元的に把握するために不可欠です。この検査により、インプラントを埋入する最適な位置や角度、必要な骨造成の範囲などを正確に判断できます。また、シミュレーションソフトを使用することで、手術前に治療計画を詳細に立てることができ、安全性と精度が向上します。
全身状態の評価も重要です。血液検査によって糖尿病や骨粗鬆症などの有無を確認し、必要に応じて内科の主治医と連携して治療計画を立てます。持病がある場合は、その病状が安定していることを確認してから治療を開始します。
術後のケアとメンテナンス
インプラント治療後のケアは、長期的な成功に直結します。
手術後は痛みや腫れが生じることがありますが、適切な対処によって症状を軽減できます。処方された薬を指示通りに服用し、患部を清潔に保つことが大切です。食事は柔らかいものから始め、徐々に通常の食事に戻していきます。飲酒や喫煙は治癒を妨げるため、少なくとも術後一定期間は控える必要があります。激しい運動や長時間の入浴も、術後しばらくは避けることが推奨されます。
インプラントを長持ちさせるためには、定期的なメンテナンスが欠かせません。6か月ごとのリコール来院で、インプラント周囲組織の検査やエックス線検査を行い、問題の早期発見と対処を行います。日々のセルフケアも重要で、適切なブラッシングと歯間清掃を継続することで、インプラント周囲炎を予防できます。
歯科医院選びのポイント
インプラント治療の成功は、歯科医院選びから始まります。
インプラント治療の経験が豊富な歯科医師がいるか、歯周病専門医などの専門資格を持つ医師が在籍しているかを確認することが大切です。また、CT検査などの精密検査設備が整っているか、滅菌管理が徹底されているかなど、医療機関の設備や体制も重要な判断基準となります。
保証制度の有無や内容も確認しておきましょう。万が一インプラントに問題が生じた場合の対応方針や、保証期間、保証条件などを事前に理解しておくことで、安心して治療を受けられます。また、治療費の総額や支払い方法についても、明確な説明を受けることが大切です。
まとめ
インプラント治療は、失った歯を取り戻す優れた方法ですが、すべての方に適応できるわけではありません。
骨の量や質、全身疾患の有無、年齢、生活習慣など、さまざまな要因が治療の可否に影響します。しかし、骨が足りない場合でも、骨造成という技術によって治療が可能になるケースが増えています。GBR法、サイナスリフト、ソケットリフトなど、患者様の状態に応じた適切な骨造成方法を選択することで、以前は治療が困難だった症例でも対応できるようになりました。
インプラント治療を成功させるためには、精密な検査に基づいた治療計画、適切な術前準備、そして術後のケアとメンテナンスが重要です。持病がある方は主治医と連携しながら治療を進め、喫煙習慣のある方は禁煙に取り組むことが推奨されます。また、定期的なメンテナンスを継続することで、インプラントを長期的に維持できます。
インプラント治療を検討されている方は、まず歯科医院で精密検査を受け、ご自身の状態が治療に適しているか確認することをおすすめします。経験豊富な歯科医師と十分に相談し、納得のいく治療計画を立てることが、成功への第一歩となります。

著者情報
理事長 梶原 基弘NORIHIRO KAJIWARA
- 経歴
- 九州歯科大学口腔インプラント科医員 外来診療チーム長
- 九州歯科大学口腔再建リハビリテーション学分野(口腔インプラント学)大学院歯学博士
- 関東医療法人 東京都、神奈川県にて院長に
- 資格・所属学会
- 日本口腔インプラント学会
- JSOI 日本口腔インプラント学会専門医
- 九州歯科大学歯学博士
投稿論文
- Soft tissue biological response to zirconia and metal implant abutments compared with natural tooth: microcirculation monitoring as a novel bioindicator. Kajiwara N, Masaki C, Mukaibo T, Kondo Y, Nakamoto T, Hosokawa R.Implant Dent. 2015 Feb;24(1):37-41.
- Comparison of plaque accumulation and soft-tissue blood flow with the use of full-arch implant-supported fixed prostheses with mucosal surfaces of different materials: a randomized clinical study. Kanao M, Nakamoto T, Kajiwara N, Kondo Y, Masaki C, Hosokawa R.Clin Oral Implants Res. 2013 Oct;24(10):1137-43.
Two-dimensional real-time blood flow and temperature of soft tissue around maxillary anterior implants. Nakamoto T, Kanao M, Kondo Y, Kajiwara N, Masaki C, Takahashi T, Hosokawa R.Implant Dent. 2012 Dec;21(6):522-7.
