喫煙者のインプラントリスクとは?治療前に知るべき影響と対策

喫煙がインプラント治療に与える深刻な影響
インプラント治療を検討されている方の中には、喫煙習慣をお持ちの方もいらっしゃるでしょう。
タバコが健康に悪影響を及ぼすことは広く知られていますが、インプラント治療においても喫煙は極めて重大なリスク要因となります。実際、喫煙者のインプラント脱落率は非喫煙者と比較して約2倍高いというデータが報告されています。
喫煙習慣がある場合、インプラント治療を断られることも珍しくありません。しかし、適切な知識と対策を持つことで、喫煙者でもインプラント治療を成功に導くことは可能です。本記事では、喫煙がインプラントに及ぼす具体的な悪影響と、治療を受ける際に知っておくべき重要なポイントを解説します。
喫煙者でもインプラント治療は受けられるのか
結論から申し上げますと、喫煙者でもインプラント治療を受けることは可能です。
ただし、少なくともインプラントの治療中は禁煙しなければなりません。可能であれば、インプラント治療後も禁煙を継続することが望ましいと考えられます。ヘビースモーカーと呼ばれるほどの喫煙習慣がある方は、インプラント治療を受けられない可能性もあります。
電子タバコや加熱式タバコの場合は
近年では、電子タバコや加熱式タバコを使用している方も増えています。
蒸気を吸い込むタイプの電子タバコは、タバコの葉を使用しないためニコチンを含んでいないことが多いです。しかし、ニコチンの代わりにほかの有害物質が含まれているため、紙タバコと同じように禁煙期間が必要な場合があります。加熱式タバコは、タバコの葉を加熱して蒸気を発生させるため、ニコチンやタールが含まれています。紙タバコに比べるとニコチンの量は少ないとされていますが、インプラント治療に悪影響を及ぼす可能性が高いため、控えたほうがよいでしょう。
治療を受けるための条件
喫煙者がインプラント治療を受ける場合、基本的にはインプラント手術前と手術後の一時的な禁煙が求められます。
多くの歯科医院では、手術の前後2週間程度の禁煙を推奨しています。また、治療後も定期的な検診を受けることが、インプラントを長持ちさせるために不可欠です。喫煙者の方は、非喫煙者に比べてインプラント周囲炎のリスクが高いことをしっかりと理解する必要があります。
喫煙がインプラントに及ぼす6つの悪影響
タバコに含まれるニコチンや一酸化炭素、タールなどの有害物質は、インプラント治療の成功に必要な生体プロセスを様々な形で妨げます。
ニコチンによる血流阻害
タバコに含まれているニコチンには、血管を収縮させる働きがあります。すると、血流が阻害され、インプラントを支えている歯肉に酸素や栄養といったものがうまく供給されない状態になります。結果として傷口が治るのが遅くなるだけではなく、インプラントと骨がうまく結合しない状態を招いてしまうケースも多いです。
インプラント治療の成功には「オッセオインテグレーション」と呼ばれる、インプラントと顎の骨が強固に結合するプロセスが不可欠です。
一酸化炭素による酸素供給の阻害
喫煙によって発生する一酸化炭素も、ニコチンと同様に血流を阻害します。これは、一酸化炭素が血液中にあるヘモグロビンと結合してしまうからです。
ヘモグロビンは酸素を運ぶ重要な役割を持っているので、正しく働けなくなると、酸素の供給量が減ってしまいます。健康な身体でいるためには、血液に乗って多くの酸素や栄養が全身をめぐる状態にしなければなりません。タバコは、これを邪魔してしまいます。
白血球の活動抑制
体内において、細菌と戦って体を守る役割を持っているのが、白血球です。白血球が活発に働いているからこそ、健康が守られます。ですが、タバコに含まれているニコチンには白血球の機能を低下させてしまう働きがあります。
白血球が弱まっている状態で歯肉部分にバクテリアなどが入り込むと、炎症が進行しやすいので注意しなければなりません。このことから、喫煙者はタバコを吸っていない方に比べて炎症が悪化しやすく、インプラントの状態が悪くなりやすいです。
細胞増殖の抑制
インプラント治療後は、細胞を増殖させ、外科手術によって傷ついた歯肉を回復させていく必要があります。
ですが、タバコには歯肉を回復させるのに必要な細胞の増殖を妨げてしまう働きがあり、回復に時間がかかってしまう場合が多いです。治療期間が長引くことは、患者様にとっても大きな負担となります。
唾液分泌量の減少
唾液は口内を乾燥から守り、細菌の繁殖を抑える役割があります。それだけではなく、タバコに含まれている有害物質を中和する重要なものです。ですが、ニコチンが持つ血管収縮作用と一酸化炭素の血液の酸素運搬能の阻害作用は、血流の悪化だけではなく、唾液の分泌量も低下させます。
唾液が減った口内では細菌が繁殖しやすい環境が整ってしまうため、虫歯などのリスクが高まります。さらに、インプラントを失う大きな原因となるインプラント周囲炎のリスクも高まるため、十分注意しなければなりません。
免疫力の低下
健康な体を目指すためには、免疫力を高めておくことが欠かせません。タバコに含まれているニコチンなどの有害物質には、免疫力に対し、悪影響があります。インプラント治療後は、歯周病やインプラント周囲炎といった細菌感染症には十分注意しなければなりません。
ですが、免疫力が落ちてしまうと細菌感染症のリスクが高まります。免疫力はストレスなどによっても低下するものなので、タバコに加えてストレスでも免疫力が落ちてしまうと、短期間で状態が悪化してしまう可能性も高いです。また、免疫力が落ちていると、治療をしても改善しにくくなります。
喫煙によるインプラントの具体的なリスク
喫煙している方は、喫煙していない方と比較してインプラント治療におけるリスクが高まります。

手術失敗の可能性が高まる
インプラントはインプラント体と骨がしっかりとくっついていることが前提です。インプラントを埋めた周辺では、新しい骨が増殖してインプラントに付着しながら固定していきます。
ところが、タバコに含まれているニコチンと一酸化炭素には、血液中にある栄養や酸素などの供給を抑える働きをします。つまり、粘膜や骨に十分な栄養が届かず、ダメージを与えてしまうことになり、インプラントと骨がしっかりと固定されない可能性が高いです。最悪の場合には、インプラントと骨がくっつかずに自然に抜けてしまう恐れがあります。
喫煙者のインプラントの失敗率は、非喫煙者と比較して上顎で2.06倍、下顎で1.32倍も高くなると報告されています。
インプラント周囲炎のリスク増加
インプラント周囲炎とは、インプラント周囲の歯茎が炎症を起こして、インプラントを支えている顎の骨を溶かす病気です。基本的には、歯周病と同じような症状が現れます。喫煙習慣がある方は、ニコチンの影響で血流が悪化して免疫力も低下しやすいため、細菌が増殖しやすいです。
インプラントは人工物なので、天然歯に比べて細菌への抵抗力が低いといわれており、インプラント周囲炎になると進行が早いので注意が必要です。インプラント周囲炎が進行すると、インプラントが次第にぐらつき、最終的には脱落する可能性があります。
ある研究では、喫煙者のインプラント周囲炎の発症率は17.9%、非喫煙者のインプラント周囲炎の発症率は6.0%という結果が報告されています。喫煙者は非喫煙者と比べて約3倍のリスクがあることになります。
治療期間の長期化
喫煙者でインプラント治療をする場合には、非喫煙者より治療期間が長くかかるケースが多いです。基本的なインプラント手術方法には、1回法と2回法があります。1回法は、インプラント手術が1回で完了する手術で、2回法はインプラント手術が2回必要になる手術のことです。
全身的に健康で、骨や粘膜の状態に問題がない場合には、1回法のやり方で手術を行うことが多いです。しかし、タバコを吸っている方では、1回法で手術をすることはほとんどありません。それは、傷の治りが遅く細菌感染を引き起こしやすいからです。1回法手術では、インプラントと被せ物を繋ぐ部分、アバットメントが歯茎の上に露出した状態になります。
インプラントの一部が歯茎の上に露出していると、しっかりと傷口を縫合することが難しく、傷口から細菌感染を起こしてインプラントが失敗に終わる可能性があります。そのため、喫煙者がインプラント手術をする時は、2回法手術の手法を取る場合が多いです。
喫煙者がインプラント治療を成功させるための対策
喫煙者でもインプラント治療を成功させることは可能です。そのためには、適切な対策とリスク管理が重要になります。
禁煙期間の確保
インプラント治療を成功させるためには、最低でも手術前後2週間の禁煙が推奨されています。
ただし、タバコの本数を減らしても減らさないのと同じ結果であったという研究結果もあります。結論としては、インプラントの埋入の前後2週間にタバコの本数を減らしても減らさなくても変わらないため、可能であれば、減らすのではなく禁煙することが望ましいです。理想的には、治療開始の1ヶ月前から治療終了後3ヶ月程度までの禁煙が推奨されます。
フラップレス手術の検討
喫煙者に対するインプラント治療では、できるだけ口腔内の粘膜を切ったりはがしたりせずに行うことにより、喫煙者の感染のリスクを抑えることができます。このインプラント埋入をする方法をフラップレス埋入と呼んでいます。
フラップレス埋入では、歯茎を切って骨からはがすことなく、ピンポイントでインプラントを埋入します。これにより、インプラント埋入後の痛み腫れのリスクが大幅に減り、血行も良好に保つことができるので、感染のリスクも大きく低下させることができます。従って、喫煙によってインプラント治療時にリスクが高い方は、フラップレスによるインプラントの埋入することが適しています。
定期的なメンテナンスの徹底
喫煙者の方は、非喫煙者に比べてインプラント周囲炎のリスクが高いため、定期的な検診とメンテナンスが特に重要です。
インプラント周囲炎は、初期段階では目立った症状が少なく、気づかないまま悪化することが少なくありません。症状が重度になると、インプラントが安定せず抜け落ちる可能性があります。定期的な検診により、初期の段階での炎症を早期に発見し、適切な対応が可能となります。インプラントを長期的に使用するためには、日常の口腔ケアが非常に重要です。
保証制度の確認
喫煙者はインプラント保証の対象外になることがあります。どのような条件で保証が適用されなくなるのかを事前に確認しておくことが大切です。
多くの歯科医院では、喫煙習慣がある場合、保証の条件として禁煙を求めることがあります。保証を受けるためには、禁煙を継続し、定期的なメンテナンスを受けることが必要になる場合が多いです。治療を受ける前に、保証制度の詳細について歯科医院に確認することをお勧めします。
まとめ
喫煙はインプラント治療において、成功率を大きく低下させる重要なリスク要因です。
ニコチンや一酸化炭素による血流阻害、白血球機能の低下、細胞増殖の抑制、唾液分泌量の減少、免疫力の低下など、様々なメカニズムでインプラントの成功を妨げます。その結果、手術失敗のリスクが約2倍に高まり、インプラント周囲炎の発症率も約3倍になることが報告されています。
しかし、喫煙者でもインプラント治療を受けることは可能です。手術前後の禁煙期間の確保、フラップレス手術の検討、定期的なメンテナンスの徹底など、適切な対策を講じることで、治療の成功率を高めることができます。電子タバコや加熱式タバコも、ニコチンを含む場合は同様のリスクがあるため、注意が必要です。
インプラント治療は高額な投資であり、長期的な視点で考える必要があります。治療を検討されている方は、まず専門の歯科医師に相談し、ご自身の喫煙習慣とインプラント治療の適合性について、十分な説明を受けることをお勧めします。禁煙は、インプラント治療の成功だけでなく、全身の健康にとっても大きなメリットがあります。この機会に、禁煙を含めた包括的な健康改善を検討されてはいかがでしょうか。

著者情報
理事長 梶原 基弘NORIHIRO KAJIWARA
- 経歴
- 九州歯科大学口腔インプラント科医員 外来診療チーム長
- 九州歯科大学口腔再建リハビリテーション学分野(口腔インプラント学)大学院歯学博士
- 関東医療法人 東京都、神奈川県にて院長に
- 資格・所属学会
- 日本口腔インプラント学会
- JSOI 日本口腔インプラント学会専門医
- 九州歯科大学歯学博士
投稿論文
- Soft tissue biological response to zirconia and metal implant abutments compared with natural tooth: microcirculation monitoring as a novel bioindicator. Kajiwara N, Masaki C, Mukaibo T, Kondo Y, Nakamoto T, Hosokawa R.Implant Dent. 2015 Feb;24(1):37-41.
- Comparison of plaque accumulation and soft-tissue blood flow with the use of full-arch implant-supported fixed prostheses with mucosal surfaces of different materials: a randomized clinical study. Kanao M, Nakamoto T, Kajiwara N, Kondo Y, Masaki C, Hosokawa R.Clin Oral Implants Res. 2013 Oct;24(10):1137-43.
Two-dimensional real-time blood flow and temperature of soft tissue around maxillary anterior implants. Nakamoto T, Kanao M, Kondo Y, Kajiwara N, Masaki C, Takahashi T, Hosokawa R.Implant Dent. 2012 Dec;21(6):522-7.
